これは私が怪盗組織エターナルアザーで幹部として活躍していた頃の記憶の物語。
ある日、私と似たような風貌をした新入りが組織に自ら志願して入ってきた。
なんでもピンと尖った耳、やや丸みを帯びた愛らしい顔に、エルフとしては珍しい長い黒髪らしい。
この組織に志願者として入ってくる者は少なくは無い。
理由はリスキーだが実力があればそれなりの生活が保障されるから。
なによりも裏世界ではずば抜けて知名度は高かったし、その為はぐれ者や貧しい者にとっては憧れの職ではあった。
もっともモラルを除けばの話ではありますが……。
幹部になっていた関係で採用面接の面接官として私が呼ばれ、その子の面接をすることになる。
(問題はその子の本当の動機なんだよね……)
そんな事を考えながら私はトランス城の狭い個室で静かにため息をつきながら、その子を待つ。ドアをノックする音が聴こえ、私は「どうぞ」と答え、入室許可をする。
「し、失礼します!」
どぎまぎとしながら、上目遣いで私見つめる透き通った茶色の瞳に垂れ目で大きな二重瞼、眉が少し濃ゆめではあるが……。
私はそれらの情報から、その少女がとても純粋であると感じ取れた。
(ええっ! 何故こんな子がこの組織の志願に?)
これが私の初対面のその子に対する考えだった。
黒色の動きやすい麻の服を着ている事からやる気は十分に感じられし、華奢な体と俊敏な体重移動はきっと天性のもの。
髪が黒毛なのできっとハーフエルフなのだろう。
理由はこの世界では金、銀、赤以外は純粋種の遺伝ではないから。
(顔立ちもいいし、他にも適切な職が沢山あるだろうに)
そんな事を考えながら、私は書類に目を通しながら面接官としての職務を果たしていく。
「……アタナシア=クロウ。単刀直入に聞くけど、貴方は此処に何を求めてきたの?」
数分後、私達はコーヒーハウス【ブルーフラワー】で美味しくコーヒーを飲みながら個室で談話していた。「……あ、やっぱりレイシャさんはクロウさんの元上司でしたか」「あはは……。貴方の事だから大体もう察しはついてるでしょ?」「ええ、まあ……」 すました顔でホットコーヒーを飲むブラッド青年。(まあ、クロウと接点があった時点で私はもうピントと来たんだけどね)「クロウさんとは仕事で去年からのお付き合いがありましてね……」 「ですね!」「え? 宝石関係の取引って事?」(クロウは確か貴金属関係の選美眼はからっきしだったはず……?) 私は思わず眉を潜めてしまうのが自分で分かり、それを誤魔化す為に慌ててホットコーヒーを飲む。 そして横目で小次狼さんを見ると、腕組みし眼を閉じて私の隣に座っている状態だ。(この感じだと、儂はしばらく黙っておくから好きにやってくれってことだろうな……) 小次狼さんの先程から変わらない態度を見て、そう私は理解した。「そうです。クロウさんは魔法のスペシャリストであられるので、魔石やマジックアイテムの識別能力が高く大変助かってます」「えへへ、それほどでも……」「成程、クロウは魔力感知能力も高いからそこら辺の嗅覚が特化して凄かったよね……」(それでブラッド青年はクロウの特化能力を高く買って商売相手に選んだわけか) 私はこの時、クロウが言っていた『怪盗を辞めてその能力を別の方向に生かす派』の話が本当である事を悟った。(そっかあ、私が組織から離れて百年、クロウも自分で色々仕事出来る能力を覚えたんだなあ) 私は思わず嬉しくなり、深く頷いてしまった。 「そうだ! 聞いて下さい、レイシャ様! イハールさんはですね、やり手の商人であり
それからしばらくして、小次狼さんを加え、今度は3人で話し合っていく。「嬢ちゃん達すまなかったな……」「いえ……」 (小次狼さんのことだから、おそらくこの前の仕事の関係で相談しにきたんだろうけど) そんな事を考えながら静かに紅茶を飲んでいる私に対し、今度はクロウが驚きの一言を言い放つ!「流石、【禅国の雷龍】。雷気を使った独特の能力で私の気配を察知してましたか……。ということはイッカ国の美術館の時からですか……」「え! そ、そうなの小次狼さん?」 「そうじゃな、儂は一度覚えた気配は忘れんからのお……」「さ、流石禅国の元忍び頭です……」 感服したクロウは小次狼さんに対し、深々と頭を下げる。「そんなにかしこまらなくてもよい。それよりも儂が今日此処に来たのは偶然ではく、クロウ嬢がこちらに来訪したのを儂が感知したからじゃ」「……という事は小次狼さんはクロウにも話があるって事?」 小次狼さんはティーカップを手に持ち、静かに頷く。「どんな話ですか?」「実にタイムリーな話でな、嬢ちゃん達が話している【エターナルアザー】の長の手掛かりの件じゃ」「え、ええっ!」 このビックリの内容に、私とクロウは盛大に口に含んだ紅茶を噴きし、むせてしまう。「確か20年前の事じゃったかの? 儂は【エターナルアザー】の長らしきものがイッカ国に来訪したことを小耳に挟んだことがある……」「ゴホッゴホッ! えっ! じ、じゃあ⁈」「詳しい話はあとじゃ! 時間が勿体ないし、支度してさっさといくぞい!」 はい、ということで数時間かけて、あっという間にイッカ国に来ましたよっと! 私達は手荷物を宿に置き、城下町に歩いて向かう。 青空が広がる
「レイシャ様!」(そうそう、こんな感じで呼ばれてたっけ……。って、あれ? 本当にクロウの声が聞こえて来る気がするんだけど?) 私が後ろを振り向くと、そこには長い黒髪にピンと張った長い耳、やや丸みを帯びた愛らしい顔の女性が手を振りながら駆け足でこちらに向かって来るのが見えた。 少し濃ゆめの眉、垂れ目で大きな二重瞼、上目遣いで私見つめる透き通った茶色の瞳……。「あ、貴方もしかしてアタナシア=クロウ?」「はい! お久しぶりですレイシャ様!」 漆黒のワンピースを着た彼女はその布地を風ではためかせ、私にしっかりと抱き着いて来て、私達はおよそ百年ぶりの奇跡と感動の再開を果たすのだった。 それからしばらくして、私は「申し訳ないけど昔の客人が来たから」とマーガレット達に帰って貰い、自宅兼私の花屋の2階の応接間でクロウと色々話すことにした。 ソファに元気よく腰かけ、私が出した紅茶を美味しそうに飲むクロウ。「貴方、よく此処が分ったわね」「はい! 丁度仕事でイッカ国に滞在した時、美術館でレイシャ様の姿を拝見したんで!」(そっか、百年ぶりに他国にいったから偶然クロウに見つかっちゃったわけか……) あとは組織のコネクションがあれば、身元なんか簡単に調べがつくだろうしね。 「あ、拝見というか厳密に言えば、魔法感知で探したんですけどね!」「成程、貴方魔法のスペシャリストだからね……」 きっとクロウの事だから毎回仕事で広範囲のサーチを使ってたのだろう。(足を洗った身としては組織の仕事には極力関わりたくないし、正直仕事の内容は知りたく無いので聞かないでおこう) 私は陶磁器のティーカップを静かに自身の口元に運び、そんな事を考える。「……ところでクロウ。目的は私に合うだけ?」(それだけだと助かるんだけどな) 「勿論それがメインですが…&hel
それから数週間後、私は一足先に絵の修復員としてリャン国の美術館に潜り込み、お目当ての絵画の場所や美術館の地図、更には逃亡ルートを探る事になる。 理由は当日決行前に現地に来た長に、それらの情報を私が報告する段取りだからだ。 ただし、長の役目はあくまで私達のサポート役で、実行部隊は私とクロウのみであった。 計画日は警備の薄くなった夜間に決めた。 問題はお金持ちの大国リャン国は当然セキリティに厳しく、美術館及びその周辺の土地に封魔結界が張ってあることだ。 封魔結界は名前通り魔法を封じる結界であり、早い話泥棒対策であった。 当然身体強化も無効、変身も無効、逃亡のテレポートも無効と単純で強力な物である。 しかも、この封魔結界はかなり強力で力技で簡単に破れそうにないわけで、己の体のみでなんとかしないといけない模様。 で、セキュリティの二つ目が関係者以外立ち入り禁止! これは修復員で潜り込んでいる私がいるので解決済みだし、私は本物の絵画修復免許を持っていたりする。(免許関係って持っていると色々応用が利くから、当然といえば当然よね) 更にセキュリティ三つ目は大国だけに凄腕の格闘家や剣技に長けた者が警備についている事! 魔法が封印されている以上当然そうなるし、勿論俊足自慢の警備員も配置されている。 けど、私が色々シミュレートした結果、クロウに俊足でかなうものは誰もいないそうなのだ。(ま、そこがチャンスということになるかな) 作戦のざっくりとした内容はこうだ。 幸い目的の絵は背に担いで走れるレベルの小型ものであるので、まず最初に「信頼を得た私が目的の絵画を美術館の外まで運搬し、そこに変装したクロウが港までそれを運ぶと見せかけて何処かに逃亡する」予定だ。 締めとしては、「組織一俊足の長がクロウを追尾した後合流し、そのまま一緒に組織のアジトに帰還する」というシンプルなものであった。 長が闇夜に紛れ静かに見守るそんなある日、ついに作戦は決行される。 当日は雲が空を覆う漆黒の
そんなこんなで数時間後、私達は再び面接室にいた。 私は椅子に座りながらやや意識がまどろむ最中、濡れタオルで顔をふき再びクロウと向き合いながら面接を続けていく。「ど、どうでしたか……?」「……ま、満点……」 私はこう答えるしかなかったし、流石にこのマッサージテクニックは認めざるを得ない。「あの、貴方こんな技術があるなら貴族の召使いや、その手のお店で頑張る方向もあったんじゃ?」 私は至極真っ当な正論を述べる。 不器用だけど真面目だし、マッサージだけの腕は間違いなく一流の本物だ。 それに、この天然の魔技にて相手もすぐ寝ちゃうだろうから会話も必要ないし、結果不幸な事故も起きない。「あ、それなんですけど、実は最近その務めていたお店が潰れちゃって……。というか、不幸にも海賊の砲撃で消し飛んじゃってですね」「あ、ああ、港町のお店が数店舗消えた事件があったわね……」 そう、ダジリン島では海賊と国との争いはもはやお家芸。 さもありなんである。「代わりに召使として奉公しようと思ったのですが、対象の貴族様達の家はその争いで全て戦死され亡くなりました 」「そ、それは、ふ、不幸ね……」(力仕事も出来ず不器用だとこのご時世きついよね……) この子から直接マッサージを受けて分ったのだが、この子「精霊魔法の才能がありそう」なんだよね。 というのも手から光のマナが流れ込んできて、めっさ私の体が回復してるのが分った。(私の体って呪いとかは受けにくい体質なんだけど、何故か逆に光の恩恵とかは受けやすいみたいなのよね) 当の本人は気が付いてないみたいだけど、彼女が俊敏なのは、風のマナの恩恵を少なからず受けてると予想出来るしね。「あの、気になったんだけど貴方のお母さんは?」「
これは私が怪盗組織エターナルアザーで幹部として活躍していた頃の記憶の物語。 ある日、私と似たような風貌をした新入りが組織に自ら志願して入ってきた。 なんでもピンと尖った耳、やや丸みを帯びた愛らしい顔に、エルフとしては珍しい長い黒髪らしい。 この組織に志願者として入ってくる者は少なくは無い。 理由はリスキーだが実力があればそれなりの生活が保障されるから。 なによりも裏世界ではずば抜けて知名度は高かったし、その為はぐれ者や貧しい者にとっては憧れの職ではあった。 もっともモラルを除けばの話ではありますが……。 幹部になっていた関係で採用面接の面接官として私が呼ばれ、その子の面接をすることになる。(問題はその子の本当の動機なんだよね……) そんな事を考えながら私はトランス城の狭い個室で静かにため息をつきながら、その子を待つ。 ドアをノックする音が聴こえ、私は「どうぞ」と答え、入室許可をする。「し、失礼します!」 どぎまぎとしながら、上目遣いで私見つめる透き通った茶色の瞳に垂れ目で大きな二重瞼、眉が少し濃ゆめではあるが……。 私はそれらの情報から、その少女がとても純粋であると感じ取れた。(ええっ! 何故こんな子がこの組織の志願に?) これが私の初対面のその子に対する考えだった。 黒色の動きやすい麻の服を着ている事からやる気は十分に感じられし、華奢な体と俊敏な体重移動はきっと天性のもの。 髪が黒毛なのできっとハーフエルフなのだろう。 理由はこの世界では金、銀、赤以外は純粋種の遺伝ではないから。(顔立ちもいいし、他にも適切な職が沢山あるだろうに) そんな事を考えながら、私は書類に目を通しながら面接官としての職務を果たしていく。「……アタナシア=クロウ。単刀直入に聞くけど、貴方は此処に何を求めてきたの?」